2011年05月22日

押井守の『他力本願』

『他力本願 −仕事で負けない7つの力』を読んだ。
この本は、映画監督になるための方法を書いた本だ。少なくとも私にはそう読めた。
私は映画監督は目指していないが、物事を成し遂げる上で成否の鍵を握るのは、実は才能の有無ではなく、やり方の選択にあるという押井の持論は、とても良いヒントとなった。

青春の苦悩の中で悶々とした10代を過ごした後、押井守は6年在籍した大学をなんとか卒業し、社会人になった。
就職活動はうまく行かず、ようやく見つかった就職先も、ろくに給料さえ貰えないラジオ番組の下請プロダクションだったが、私にはそこが実は大事な第一歩だったように思える。

映画監督みたいな仕事は、『やりたいことがやれる環境』を手に入れることがまず関門となる。
ただ、それが理想的な環境であることは少ない。
大手の映画会社に就職させてもらえるなんて幸運はそう滅多にない。
それでも諦めずに業界の片隅でもいいから、自分に能力を身に付ける機会を与えてくれて、自分が物事を経験できるチャンスが巡ってくるような場所でがんばることが大事だ。

確かに就職というフルイで特急券を手にする奴は存在する。
人も羨む給料を貰いながら、人も羨むような仕事をやらせて貰える奴と、業界の片隅の下請プロダクションでヒィヒィ言いながら働く奴とがいる。
しかもこのセレクションはたった一回しかチャンスがない。
そこに落ちた奴は人生ゲームで別のルートに行かされる。特急券の当たらなかった人間は地味ルートだ。
ここで特急券が当たるかどうかは、人生を大きく左右するが、苦労せずに手に入れたものはそれほど多くのことをもたらしてはくれない。足利義昭に生まれるか、木下藤吉郎にうまれるかみたいなものだ。

特急券と地味ルート、理論的には特急券の方が多くのチャンスが転がっている。でも、そこには人間というフィルターがある。元々才能がある人にとっては、特急券が当たったの方が早く楽に目的を達成できるだろう。
でも、才能が無いか、もしくは開花していない場合、地味ルートの方が人間そのものを鍛えてくれる。
当然、地味ルートは貧乏だったり、社会的に認められていなかったりして、苦労は多い。
だが、そういう苦労があるから努力ができる。
裕福な生活をしていても必死になって努力できるという人は少ない。

そういう点では、押井守は大学卒業後にすぐ結婚し、荷を背負ってスタートした。
実はこれこそが本当の特急券だったのではないか?

タツノコプロに入ってからはとんとん拍子にチャンスをモノにする。
晩成というのはいいことだ。
力もないうちにチャンスが巡ってきてもモノにはできない。
私も今まで幸運なチャンスに恵まれたことはあったが、モノにできないことも多かった。
ちゃんと力を身に付けて、まだかまだかと待っているくらいが一番いい。

さて、押井守は『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』で一定の評価を得た後、『天使のたまご』という完全自己満足作品を出し、これにより3年間干された。だが本人はこの3年間の経験が、今の自分の糧になっているという。

『天使のたまご』までは、自分の表現したいことを妥協せず表現し尽くすことの重要さに主眼が置かれていた。
確かに『うる星やつら オンリーユー』では、まずそこができておらず、『ルパン3世 カリオストロの城』を出した直後の宮崎駿にケチョンケチョンにけなされたし、本人も完成試写会ではとても落ち込んだという。「映画にすらなっていない」と。
そういう点では、『天使のたまご』は映画にはなっていても、そこには『自分』しかなく、『他人』を一切閉め出した世界が描かれていただけだったので、映画として成功には至らなかった。
そして、誰も押井守に仕事を頼まなくなった。
それから3年間、来る日も来る日も企画書を書き、持ち込んだり、送ったりしては断られ、自問自答しながら壁を乗り越えようとあがいたという。
この3年間は、世間の荒波があることに気付かせようとした3年間だったのかもしれない。

この本のサブタイトルは「仕事に負けない7つの力」だが、その筆頭は「対話力」である。
押井守を救ったのも、「対話力」だったといってもいいだろう。
ヒトという生物は独りで生きてゆくようには元々できていないと思う。
今では映画を作るためには徹底した対話が欠かせないと押井守は言っている。
映画を作るというとどうしても撮影とか編集が思い浮かぶが、それらは作業に過ぎず、映画の出来映えを本当に左右するのは企画段階でのお喋り・対話である。

押井守はその後、他人の力を生かして映画を作るようになり、本物の映画監督になっていった。
才能が枯渇することもないし、締め切りもちゃんと守る。
あとはそれが映画になっているかどうかだけ。

さて、社労士事務所でも対話は欠かせないと私は以前から感じていた。
だが、なかなかそれは難しい。
ひとつは時間に余裕が作れてないこと。
もうひとつは対話の大切さに気付ける従業員になかなか出会えないこと。
従業員とはどうしても対等になれない所があるので、それも対話の障害かもしれない。
お客さんの中でも、対話が成り立つ相手は意外と少ない。もちろん、その対話はお客さんのための対話だが。
理想はパートナーと呼べる仲里いることか。それこそかなり難しい。ブログパーツ


kimmasa1970 at 15:35コメント(0)日々のできごと  

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